My Poems

2018年11月22日 (木)

上野駅

上野駅

 

 

ちょっとさびしいことではないだろうか

かつて 北の玄関 といわれた上野駅が

たんなる通過駅になってしまったということは

 

北国の人々の訛りがそこここで聞かれたあの趣のある停車場は

もはや普通の乗客たちが行き交うありふれたターミナル駅だ

 

東北・上越新幹線の東京駅乗り入れ

上野東京ラインの開通…

 

場所もたたずまいも全く変わらないのに

時代の流れに抗しきれず

北の玄関の地位を東京駅に譲ってしまった上野駅

 

今や北方の乗客たちが上京して最初に降り立つ駅は

東京駅

赤煉瓦の駅舎で名高い首都の表玄関なのだ

 

うっすらと雪化粧した夜行列車が

薄暗い構内に入ってくる情感あふれるイメージも

やがて消え去ってしまうのだろう

 

ひとつの役目を終えた上野駅に

たったひとこと

こんなふうに言いたくなった

 

ながいあいだ おつかれさまでした

 

 

2018年11月22日

2018年11月 6日 (火)

時の流れ

時の流れ

 

秋らしく色づき始めたツタが

新幹線高架下の白壁を覆っていた

 

自然が創作したカラフルなアートは

いたく見ごたえがあった

 

ところで 昔 あそこ上中里には

新幹線は走っていなかった

 

やがて真新しい高架が敷設されたが

ツタは這っていなかった

 

それが いつのまにか あんなふうに

 

時の流れを感じずにはいられない

 

 

夕方 とあるスーパーで商品をかごに入れ レジに行った

 

ポイントカードは いわゆるセルフだという

 

ただかざすだけ

 

そして セルフ精算レジとやら

 

初めて使った

ちょっととまどいながら

 

いつかレジには人がいなくなるのだろうか

 

つくづく時の流れを感じずにはいられない

 

2018年11月6日

2018年10月21日 (日)

ピアノを弾く女

ピアノを弾く女

 

 

昼下がりの公園をそぞろ歩きしていると

どこからともなくピアノの音が聞こえてきた

 

ぽろろん ぽろろん…

 

ひくく鳴り渡る楽音に誘われるがままに歩を進めると

小ぶりで瀟洒な家屋が建っており

プチ・コンサートの案内が出ていた

 

カーテンで半ば覆われた窓越しに

そっとのぞいてみると

綺麗なドレスに身を包んだうら若い女人が

背をこちらに向けて

ピアノを練習しているのだった

 

ぽろろん ぽろろん…

 

ショパンの曲であった

 

優美で 繊細で しなやかな両手の動きから紡がれる

えもいわれぬ高雅な音楽…

  

あの時 窓外で

たったひとりの 不意のリスナーが

胸を高鳴らせて聞き入っていたことを

彼女は知らない

 

ぽろろん ぽろろん…

 

2018年10月21日

2018年10月16日 (火)

黒いコートの女

黒いコートの女

 

 

あの夜 わたしは

図書館からの帰途

駅に向かって歩いていた

 

途中 陸橋を渡った

 

快い夜風が吹き渡っていた

 

突然 下方を

黒いコートに身を包んだ すらりとした若い女性が

つかつかと通り過ぎて行った

 

後姿をこちらに見せて

 

つまり わたしたちは あの瞬間

上と下とで 交差したのである

 

ちらと見ただけだったが

夜の闇に抱かれた あの端正な姿が

時たま わが心象に浮かび上がるのは なぜだろう

 

これは 二十年以上も前に 東京都北区の一点で起こった出来事である

 

これは 二度と繰り返されることのない出来事である

 

そして

これは わたしという一個人の内面世界で展開する

永遠の詩的イメージである

 

 

2018年10月16日

2018年10月10日 (水)

序曲

序曲

 

 

夕暮れ時

古びた壁ぎわを歩いていた

 

と 映画会の案内とおぼしき

小さなポスターが貼ってある

 

○月○日 ○時○分より

○公民館にて M…を上映します

 

M…

 

戦後まもなく撮られた

あの有名な反戦映画

 

ガラス戸越しのキス

戦争で引き裂かれた恋…

 

かつて図書館で鑑賞したこの古いモノクロの邦画には

余韻嫋嫋たるものがあった

 

このポスターを見て 幾人かが

○月○日 ○時○分 ○公民館にやって来て

M…を観るだろう

 

そして そのうちの幾人かが

忘れがたい感動を覚えるだろう

 

今 夕日に照り映えている

このささやかなポスターは

貴重な感動を呼び起こす序曲となるに違いない

 

 

2018年10月10日

2018年10月 2日 (火)

予感

予感

 

 

小雨そぼ降る物寂しい昼下がり

 

駅前に 広大なさら地が広がっている

 

人っ子一人いない無言のさら地

 

どんよりとした灰色の空の下

おぼつかない地平線が霞んで見える

 

将来ここに 大規模団地ができるらしい

 

高層住宅が林立した暁には

この茫漠とした光景は一変するだろう

 

晴れた日には

日陰と日向がくっきりするだろう

 

緑の木々が生い茂り

さまざまな人々が行き交うだろう

 

芝生にはつつましやかな花々が咲くに違いない

 

夜は照明灯がきらめき

無数の窓から光が放たれるだろう

 

そして

住民たちの喜怒哀楽に縁どられたドラマが

繰り広げられるのだ

 

今ここは のっぺらぼうな砂地に過ぎないが

そのころには

きれいな書き割り付きの舞台となっているだろう

2018年10月2日

2018年8月25日 (土)

夜景

夜景

 

 

深夜

風景をよぎっていった

 

仕事帰りの夜

原付に乗って

微風を感じながら

 

交差点

青信号

家々の灯

 

対向車のヘッドライト

 

人影

あいまいな容貌

古びた看板

 

ファミレスから漏れ来る光は

まばゆいばかり

 

あの店の中で

どんな会話が交わされていたことか

 

深夜の県道は暗く静かで

ミステリアスな香気がした

 

わたしは夜の風景をよぎっていた

心地よい微風を感じながら

 

 

2018年8月25日

2018年7月28日 (土)

幻のレストラン

幻のレストラン

 

エマヌエル・バッハの曲にのせて作った小品

 

冬の真昼

 

曇った出窓のガラスが

外の寒気を暗示する

 

アンティーク調の

瀟洒なインテリア

 

天井から吊り下がったランプは

淡い五彩を放ち

 

薄暗い店内に

神秘な光を投げかける

 

オーダーした料理は

忘却の彼方に葬り去られ

 

あの昼時の喧騒が

かすかに聞こえ来るのみ

 

それから程なくして

レストランは消滅した

 

まれにみる美観を誇った

ロマネスクな邸宅風の料理店

 

わが胸に残る

ほのかな冬の日のメモリー

 

 

2018年7月28日

2018年6月26日 (火)

風鈴

風鈴

 

 

あんみつを賞味していたのだった

 

亀戸天神のすぐそばにある老舗和菓子店で

 

ふと目を上げると

うすぼんやりとした窓の向こうで

風鈴がゆらめいている

 

ちりりんという音もなく

風のまにまにほの揺れるその姿

 

窓ガラスを隔てた外で舌(ぜつ)を動かしている

音無き風鈴もまた一興

 

食するあんみつに

さらなる美味を加えてくれる

 

また夏がやって来た

 

今年もあの風鈴は

店の軒先に吊り下がっているだろうか

 

客の目と舌を楽しませているだろうか

 

日本の夏を感じさせる

あの可愛らしくてノスタルジックな釣鐘は

 

 

2018年6月26日

2018年6月14日 (木)

クローバー

クローバー

 

 

その空き地は

一面 クローバーで覆われていた

 

晴れ渡った夏の日の午後

年端もゆかぬわたしは

そんな聖域に土足で踏み込み

そんな楽園に身を横たえたのだった

 

あの草いきれ

あの三つ葉の香り

 

蝶は舞っていただろうか

虫は這っていただろうか

探していた四つ葉のクローバーは見つかっただろうか

 

それが さっぱり思い出せないのだ

 

そんなにも はるか昔のことなのだ

 

ただ覚えていることは

あの時 わたしが

天然の臥所(ふしど)に気持ちよく横たわっていたこと

 

そして

まちがいなく

幸福だったこと

 

 

2018年6月14日

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