My Poems

2018年7月28日 (土)

幻のレストラン

幻のレストラン

 

エマヌエル・バッハの曲にのせて作った小品

 

冬の真昼

 

曇った出窓のガラスが

外の寒気を暗示する

 

アンティーク調の

瀟洒なインテリア

 

天井から吊り下がったランプは

五彩を放ち

 

薄暗い店内に

神秘な光を投げかける

 

オーダーした料理は

忘却の彼方に葬り去られ

 

あの昼時の喧騒が

かすかに聞こえ来るのみ

 

それから程なくして

レストランは消滅した

 

まれにみる美観を誇った

ロマネスクな邸宅風の料理店

 

わが胸に残る

ほのかな冬の日のメモリー

 

 

2018年7月28日

2018年6月26日 (火)

風鈴

風鈴

 

 

あんみつを賞味していたのだった

 

亀戸天神のすぐそばにある老舗和菓子店で

 

ふと目を上げると

うすぼんやりとした窓の向こうで

風鈴がゆらめいている

 

ちりりんという音もなく

風のまにまにほの揺れるその姿

 

窓ガラスを隔てた外で舌(ぜつ)を動かしている

音無き風鈴もまた一興

 

食するあんみつに

さらなる美味を加えてくれる

 

また夏がやって来た

 

今年もあの風鈴は

店の軒先に吊り下がっているだろうか

 

客の目と舌を楽しませているだろうか

 

日本の夏を感じさせる

あの可愛らしくてノスタルジックな釣鐘は

 

 

2018年6月26日

2018年6月14日 (木)

クローバー

クローバー

 

 

その空き地は

一面 クローバーで覆われていた

 

晴れ渡った夏の日の午後だったと思う

 

年端もゆかぬわたしは

そんな聖域に土足で踏み込み

そんな楽園に身を横たえたのだった

 

あの草いきれ

あの三つ葉の香り

 

蝶は舞っていただろうか

虫は這っていただろうか

探していた四つ葉のクローバーは見つかっただろうか

 

それが さっぱり思い出せないのだ

 

そんなにも はるか昔のことなのだ

 

ただ覚えていることは

あの時 わたしが

天然の臥所(ふしど)に気持ちよく横たわっていたこと

 

そして

まちがいなく

幸福だったこと

 

 

2018年6月14日

2018年6月12日 (火)

時計

時計

 

 

今日 腕時計を買った

 

なぜって?

 

こないだ 腕時計を

どこかで落としてしまったから

 

腕時計と言っても

3千円ほどの使い捨てのやつ

 

4年ほど持つという

 

4年か…

 

これからの4年間

どんなふうになるのだろう?

 

去年は江東区の女宮司が弟に刺殺され

今年は25歳の元アイドル歌手が癌を公表した

 

わたしも去年の夏 病に倒れた

 

まさに 一寸先は闇

 

そもそも 4年後

このわたし この世にいるのだろうか?

 

でも まあ とにかく 時計さん

これから4年 どうぞよろしく

 

頼りにしております

 

2018年6月12日

2018年6月10日 (日)

梅雨

梅雨

 

 

雨 雨 雨…

 

どうしてこうも降り続けるのだろう

 

わたしは知っている

 

この時節は

来たる夏への備えなのだ

あの暑く乾燥した季節への

 

夏ともなれば

人は汗をかき

のどもかわき

水を求めてやまないだろう

 

そのためにも いまのうち

存分に水を味わっておこう

十分に水を含んでおこう

 

こんなに水気を感じられるのも

この雨のシーズンだけ

 

やがて猛烈な暑気と乾燥がやってくる

 

だから いまのうち

存分に水を味わっておこう

十分に水を含んでおこう

梅雨を堪能しておこう

 

 

2018年6月10日

2018年6月 7日 (木)

電車の中で

電車の中で

 

 

文明の進化を感じるときがある

 

たとえば電車の映像広告

 

網棚の上部にズラリと並んでいたポスターの代わりに

たった二つのモニターが

その新鮮な存在を誇示している

 

ニュースや天気予報の合間に

無音声で放映されるCMは

なにげに乗客の目を引きつける

 

また ドアの上方のモニターを見れば

次の停車駅がすぐわかり

現在の時刻も一目瞭然

 

時計をせずに

スマホに頼っているわたしには

おあつらえむきだ

 

ついでに言えば

最近 電車の床に

お洒落な模様が入ってきた

 

乗車するや

どこかの店舗に足を踏み入れたような気分になる

 

文明は進化している

 

利便性と洗練に後押しされながら

 

 

2018年6月7日

2018年6月 5日 (火)

夜の自販機

夜の自販機

 

闇に包まれた歩道で

自動販売機がさびしげに光っている

 

近づいて行って

その前で立ち止まる

 

サンプルのドリンクたちが

煌々と照らされている

 

コインを入れる

やや慎重に

下に落とさないように

 

お目当ての飲料のボタンを押す

やや強く

押し損なわないように

 

ドンという音をたてて

飲み物が落ちる

 

やや取りにくいが

防塵カバーの下から

商品を取り出す

 

街の灯を見るともなく見ながら

ドリンクを飲む

なにげに落ち着かない

 

空き缶ポストに

空き缶を捨てる

 

無言の自販機を後にして

帰途につく

2018年6月5日

2018年5月30日 (水)

摩天楼

摩天楼

 

池袋

サンシャイン60

 

かつては

日本一のノッポビルだった

 

最上階にある展望台から

茫漠たるミニチュアのような地上の光景を眺めたのは

もうずいぶん昔のこと

 

なにやらイモムシのようなものが

ゆっくり這っているかと思いきや

よく見れば

今は無き国鉄103系の山手線であった

 

模型の電車よりもはるかに小さく

くねくねと音もなく走るその姿は

なにかしら奇異な感興を催させた

 

ところで

地上に降り

このビルのふもとのベンチに腰掛けて一服していると

眼前を二人の青年が走り過ぎていった

 

ひとりが つと立ち止まり

大きくのけぞるようにしてビルの頂上を見上げ

感嘆した素振りを見せた

 

上にいても

下にいても

摩天楼は

なにがしかの非日常性で

人の目を楽しませてくれる

2018年5月30日

2018年5月24日 (木)

真昼の公園

真昼の公園

 

その公園は

正午ともなれば

静かなお祭り広場と化すのだった

 

大道芸人や露天商こそいなかったが

いつもきまってどこかから

名も知れぬ老若男女が大勢やって来るのだった

 

ペットボトルのお茶を片手に

群れ集う鳩に餌をやるおじさん

古びたベンチに座って

熱心に新聞を読むおじいさん

どこかの会社員とおぼしき若いカップル…

 

毎日毎日お昼時になると

それら見覚えのある顔が

繰り返し現れるのだった

 

道を挟んで北側に瀟洒な教会があり

公園の中央には一本の大きな木が植わっていた

 

一度その木の枝にとまっていたカラスから

少量のフンを頭にくらったことがある

何かタオルでも買って拭こうと近くの雑貨屋に入って

「カラスにフンをかけられました」と言ったら

「じゃあこれでもどうぞ」とタダで雑巾を一枚手渡されたが

いかにも下町らしい好ましさだと思ったものだ

 

ヒト ハト カラス…

正午ともなれば

さまざまな生き物が

都市の喧騒を逃れ慰安を求めて

その公園にやって来るのだった

2018年5月24日

2018年5月22日 (火)

行かなかった道

行かなかった道

 

 

薄曇りの昼下がり

とある瀟洒な住宅街を彷徨したことがある

 

白壁の洋館の立ち並ぶその端正な街区を

一本の道が貫いていた

 

かなたで上り坂になっていて

その先がどうなっているのか

知りたい気がなくもなかったのだが

行かずじまいになってしまった

 

あの坂を上ったら

もう行き止まりだったのだろうか

それとも

道はまだまだ続いていて

新奇な景観が開けただろうか

 

いま

おぼろな記憶からよみがえってくるのは

仏蘭西菓子マドレーヌのような

スパゲティナポリタンのような

ルビー色したビロードのような

いともシックな家並み

 

そして

先行きのわからない

ミステリアスな

ひともとの道

 

 

2018年5月22日

より以前の記事一覧