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2018年10月

2018年10月21日 (日)

ピアノを弾く女

ピアノを弾く女

 

 

昼下がりの公園をそぞろ歩きしていると

どこからともなくピアノの音が聞こえてきた

 

ぽろろん ぽろろん…

 

ひくく鳴り渡る楽音に誘われるがままに歩を進めると

小ぶりで瀟洒な家屋が建っており

プチ・コンサートの案内が出ていた

 

カーテンで半ば覆われた窓越しに

そっとのぞいてみると

綺麗なドレスに身を包んだうら若い女人が

背をこちらに向けて

ピアノを練習しているのだった

 

ぽろろん ぽろろん…

 

ショパンの曲であった

 

優美で 繊細で しなやかな両手の動きから紡がれる

えもいわれぬ高雅な音楽…

  

あの時 窓外で

たったひとりの 不意のリスナーが

胸を高鳴らせて聞き入っていたことを

彼女は知らない

 

ぽろろん ぽろろん…

 

2018年10月21日

2018年10月16日 (火)

黒いコートの女

黒いコートの女

 

 

あの夜 わたしは

図書館からの帰途

駅に向かって歩いていた

 

途中 陸橋を渡った

 

快い夜風が吹き渡っていた

 

突然 下方を

黒いコートに身を包んだ すらりとした若い女性が

つかつかと通り過ぎて行った

 

後姿をこちらに見せて

 

つまり わたしたちは あの瞬間

上と下とで 交差したのである

 

ちらと見ただけだったが

夜の闇に抱かれた あの端正な姿が

時たま わが心象に浮かび上がるのは なぜだろう

 

これは 二十年以上も前に 東京都北区の一点で起こった出来事である

 

これは 二度と繰り返されることのない出来事である

 

そして

これは わたしという一個人の内面世界で展開する

永遠の詩的イメージである

 

 

2018年10月16日

2018年10月10日 (水)

序曲

序曲

 

 

夕暮れ時

古びた壁ぎわを歩いていた

 

と 映画会の案内とおぼしき

小さなポスターが貼ってある

 

○月○日 ○時○分より

○公民館にて M…を上映します

 

M…

 

戦後まもなく撮られた

あの有名な反戦映画

 

ガラス戸越しのキス

戦争で引き裂かれた恋…

 

かつて図書館で鑑賞したこの古いモノクロの邦画には

余韻嫋嫋たるものがあった

 

このポスターを見て 幾人かが

○月○日 ○時○分 ○公民館にやって来て

M…を観るだろう

 

そして そのうちの幾人かが

忘れがたい感動を覚えるだろう

 

今 夕日に照り映えている

このささやかなポスターは

貴重な感動を呼び起こす序曲となるに違いない

 

 

2018年10月10日

2018年10月 2日 (火)

予感

予感

 

 

小雨そぼ降る物寂しい昼下がり

 

駅前に 広大なさら地が広がっている

 

人っ子一人いない無言のさら地

 

どんよりとした灰色の空の下

おぼつかない地平線が霞んで見える

 

将来ここに 大規模団地ができるらしい

 

高層住宅が林立した暁には

この茫漠とした光景は一変するだろう

 

晴れた日には

日陰と日向がくっきりするだろう

 

緑の木々が生い茂り

さまざまな人々が行き交うだろう

 

芝生にはつつましやかな花々が咲くに違いない

 

夜は照明灯がきらめき

無数の窓から光が放たれるだろう

 

そして

住民たちの喜怒哀楽に縁どられたドラマが

繰り広げられるのだ

 

今ここは のっぺらぼうな砂地に過ぎないが

そのころには

きれいな書き割り付きの舞台となっているだろう

2018年10月2日

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