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2017年3月

2017年3月31日 (金)

花見

花見

 

 

正午過ぎ

いつものカフェに向かう途中

ひともとの桜の木に出会った

 

ようやく春めいてきた三月の末日

薄曇りの空をバックに

数多の花を咲かせている

 

白ともピンクともつかない

あの霊妙な色合いに目を奪われ

思わず知らず歩調が緩む

 

そして思いを馳せてみる

花の短くはかない生涯に

 

期せずして成った

今春初めての花見

 

上野でもなく

千鳥ヶ淵でもなく

飛鳥山でもない

とあるガラス工場の敷地内に生えている

ささやかな桜の木

 

ほんのひと時 愛でただけだが

十分満足のいくものだった

 

桜の魅力はあの花びらに尽きる

やがてはらはらとむなしく散りゆくあの小さな花びらに

 

 

 

2017年3月31日

2017年3月26日 (日)

スロープ

スロープ

 

 

日差しの強い日の午後

芝生に覆われた急な斜面に座っていたことがあった

 

そばに年恰好の同じくらいの少年がいて

何度も寝そべっては

斜面をごろごろと転がり落ちていくのだった

 

両手を胸の前に組み

全身芝草だらけになりながら

心地よさそうに

 

きみもやってみな

 

言われるままに

横たわりつつ転がり落ちてみた

 

ぐるぐる回るあたりの景色

まぶしいばかりの太陽光線

 

芝生の程よいクッションを通して

大地の地肌を感じたのが新鮮だった

 

それは畳でもなく 絨毯でもなく 板張りの床でもない

天然の臥所(ふしど)であった

 

上には燦燦と照る太陽

下にはほの暖かい地肌

 

あの時 わたしは確かに享受していた

自然の懐に抱かれることの浄福を!

 

 

2017年3月26日

2017年3月25日 (土)

図書館にて

図書館にて

 

 

二冊の本をコピーするために

駅前の図書館を訪れる

 

ブロークとパステルナークの詩集

どちらも無事 書棚にいてくれた

 

これら分厚く高価な本を

全部読むには及ばない

 

一部のみを複写すれば

数十枚 数百円で済む

 

なんと経済的な話だろう

いささか根気がいるとはいえ

 

今夜は複写ミスなし

上首尾だ

 

原本をもとの場所に戻すとき

ふと ずっと以前に借りたことのあるロシア詩の本が目に入った

 

この大きなライブラリーに吸収されてしまった

今は無き小さな二階建ての図書館

蔵書は皆こちらに移動した模様

 

懐かしい思いで手に取れば

わたし同様 少し古びたような

 

知らぬ間に 閉館の時間になっていた

あの有名なボヘミアの旋律が低く聞こえてくる

 

わたしも家路につくことにしよう

2017年3月25日

2017年3月18日 (土)

真夜中の旋律

真夜中の旋律

 

 

御茶ノ水の とあるホテルに泊まったのは

もう はるか昔のこと

 

深夜 バスタイムが過ぎ

糊のきいた寝間着に身を包み

よく整えられたベッドに入る

 

傍らには シェードの付いたライトの載った

マホガニー製の小ぶりなナイトテーブル

 

前面には二つのつまみ

一つはライトの照度を

もう一つはBGMの音量を調節するためのもの

 

一方を左に回して部屋を暗くした後

もう一方を右に回してみる

 

すると カチッという音とともに

ムーディーなメロディーが 次から次へと流れ出てくる

 

暗闇に低く響き渡る心地よい音楽

いくつかは 聞き覚えのある曲

しばらくはこの陶酔に身をゆだねよう

 

大きな窓は厚いカーテンで覆われ

真夜中の客室に 外の物音は何ひとつ聞こえてこない

 

静まり返ったかりそめの部屋で

甘美な旋律たちに抱かれたわたしは

いつしか眠りに落ちていった

 

 

2017年3月18日

2017年3月12日 (日)

黄昏の月

黄昏の月

 

 

夕方の帰宅ラッシュで

駅前は混雑していた

 

雑踏の中で ふと目を上げると

駅舎の真上 薄青色の大空に

まん丸い銀色の天体が ぽつねんと浮かんでいる

 

このくっきりとして微動だにしない代物が

何やら人の顔に見えてきた

あくせく動き回る地上の有象無象を

高みから冷ややかに見おろす顔に

 

ああ 孤高の天体よ!

きみはいつの時代でも どの国にあっても

夜の巷を眺めようと

ひょっこり顔をのぞかせる

 

二百年前のドイツでヘルダーリンを感動させ

名編「夜」を書かせたきみが

今 ささやかな詩趣をもたらしてくれた

 

これから何度きみを拝むことだろう

ある時はまん丸顔 またある時は細面

ある時は温かな そしてある時は冷ややかなきみの顔を

 

そのたびにわたしは何かしら詩情を感じるだろう

そして味わうことだろう

きみの光から

極上の美酒を

 

 

 

2017年3月12日

2017年3月11日 (土)

すれ違う女

すれ違う女(ひと)

 

 

何の因縁かは知らないが

毎朝 すれ違う女(ひと)がいる

 

線路沿いの小道

きまって陸橋の下あたりで

彼女は南へ わたしは北へ

 

アラサーくらいで中肉中背

ほどよい長さのつややかな黒髪

白いマスクで半ば覆われたやさしげな顔(かんばせ)

 

いつもシックな黒いコートに身を包み

右腕で銀色の松葉杖をついている

 

だが 彼女の足取りは軽やかで歩調は速やかだ

 

控えめな音をたててリズミカルに地に触れるその杖は

もはや体の一部と化してしまったかのよう

 

ところで先日の夕刻

帰宅途中でも彼女とすれ違った

彼女は北へ わたしは南へ

 

この時ばかりは 彼女もちょっとにんまりした

ように思われた

 

何の因縁かは知らないが

毎朝 すれ違う女(ひと)がいる

彼女は南へ わたしは北へ

 

 

 

2017年3月11日

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