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2012年8月26日 (日)

あいびき (6) (ツルゲーネフ作)

Photo_6私はしばらくたたずんでいたが、やがて例のヤグルマギクの花束を拾い上げると、白樺林から野原に出た。

もう太陽はほの明るい空の低いところにあり、その光もまた、まるで色褪せて冷たくなってしまったかのようであった。

その光は明るく輝かずに淡くむらなく広がっていたので、ほとんど薄明のようだった。

日の入りまでにはもう半時間もなかったが、ほんのかすかな空焼けが現れていた。

黄色い乾いた取り入れ後の畑を超えて、突風が吹きつけてきた。

反り返った小さな枯葉は、その風でにわかに舞い上がると、道を横切り、それから森の端に沿って私のそばを吹き飛んで行った。

白樺林のうち、野原に面した部分はみなうち震え、明るくとまでは言えないまでもかなりはっきりときらめいていた。

やや赤みを帯びた草の上では、・・・至る所で無数の秋の蜘蛛の巣がきらめき、波立っていた。

私は立ち止まった・・・

なんだか物悲しくなってきた。

凋落しつつある自然の悲しくも澄みきった微笑の陰に、冬のあの陰気な恐ろしさがすぐ近くまで忍び寄っているように感じられた。

上空高く、用心深そうなワタリガラスが荘重に翼を広げて飛び過ぎて行った。

ワタリガラスは頭をひねって横から私を見据えたが、すぐにまた高く舞い上がると、途切れがちにかあかあと鳴きながら、森の向こうに姿を消した。

穀物小屋からハトの大群がさっと飛んできたかと思うと、突然くるくると旋回し始めたが、やがてばらばらっと畑に降り立った・・・

ああ、秋の気配がする!

何も生えていない丘の向こう側を、ごとごとと大きな音を立てながら、誰かが荷馬車に乗って通り過ぎて行った・・・


私は家に帰った。

だがあの哀れなアクリーナの姿は、長いこと私の念頭から去らなかった。

そして彼女の摘んだあのヤグルマギクはもうとっくにしおれてしまったが、今なお私はそれを大切に保存している・・・


Свидание

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コメント

=今なをそれを 大切に保存している。= なるほどと思いました。
しかも、 矢車草ですね。 あの時に黄色く 普通はあの 青
ヨーロッパの方は 結婚するときの習わしに ブルーのリボンを
何処かに結ぶとか・・・あの矢車草の ブルーです。

なにより 細やかな 描写と 余韻を残す文でした。

> kawasemi さん

最後までお読みいただき、ありがとうございました。
矢車草について、そのようなことは全く知りませんでした。
貴重な情報を提供していただき、ありがとうございます。
「細やかな 描写と 余韻を残す文」・・・
ツルゲーネフの文体について正鵠を射ていると思います。

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