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2012年5月 4日 (金)

アタラの埋葬(愛しの名画たち 8)

アンヌ=ルイ・ジロデ・ド・ルーシー=トリオゾン(フランス、1767~1824)は、新古典主義絵画の代表者であったダヴィッドの数多くの弟子のうちの一人でしたが、いわゆる「ダヴィッド門下の3G」に数えられる(あとの二人はグロとジェラール)ほどの卓越した技量を持ち合わせていました。

ジロデはもともと哲学や詩文等に造詣が深かったため、いきおい描く対象も文学的なものが多く、この『アタラの埋葬』(1808年 油彩 カンヴァス 197×260㎝ パリ、ルーヴル美術館)もそのような彼の特質をよく表している傑作です。

この絵の主題は、1801年に「フランス・ロマン主義文学の父」とも呼ばれるシャトーブリアンが発表した『アタラ』という小説で、この17世紀アメリカの大自然を舞台にした魅力的な作品は、私も学生時代に読んだことがあります。

アタラというインディアンの娘が、シャクタスという敵の部族の青年と恋に落ち愛し合うのですが、敬虔なキリスト教徒である彼女は神に対して処女の誓いを立てていたがために苦悩し、みずから毒をあおって自殺してしまう、というストーリーです。

Photo
夕闇せまる洞穴で、今は隠者となったオーブリー神父とシャクタスがアタラを埋葬する場面が描かれていますが、岩肌には、「時至らずして枯れ・・・」という旧約聖書のヨブ記からの引用句が刻まれているのが見えます。

私もこの絵はルーヴル美術館で見ましたが、かなり大きな作品であり、画上のニスが良い具合に光沢を帯びていた、ということが印象に残っています。

古典的な彫塑的人物像や明瞭な輪郭線といった、師ダヴィッド譲りの新古典主義的な要素は認められますが、そのキアロスキューロ(一種の明暗法)や遠景に見られる十字架に象徴されるキリスト教への回帰、そしてエキゾチックで官能的な雰囲気等、ロマン主義的な要素も多分に含まれていて、ダヴィッドの作風からの大いなる乖離が認められます。

このようなロマン主義を先取りするような画風を示したことにより、ジロデを前期ロマン派の画家に加える向きもあるようです。

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コメント

あ~!かとり ふづきさん、、「花鳥風月」のあの、方でしたか・・どうも。
時々、読ませていただいて、はじめロシアのことでコメントをいたしました。
凄い、勉強されている方だと 感心しました。

見ていただいて、ありがとうございます。 なかなか、詩って難しくて
ことばが、無かったらできるのに・・など思って 瞬間を書くのは
楽しんで 苦しんでます^^。

> kawasemi さん

お書きになっている詩作品から、
巧まざるユーモアとあたたかみが感じられて、
心惹かれました。

これからもよろしくお願いします。

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