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2012年5月10日 (木)

「わたし」の木立   ツルゲーネフ   (ロシアの抒情詩 13)

「わたし」の木立(『散文詩』より)


裕福な地主貴族である、かつての大学時代の友人から手紙を受け取った。 彼は自分の屋敷に私を招待してくれたのである。

私は知っていた、彼が長いこと病気で、盲目になり、中風にやられて歩くのもやっとになっているということを・・・ 私は彼のところへ出かけた。

彼の広大な庭園の中にある小道のひとつで彼に出会った。 夏だというのにオーバーにしっかりと身を包み、しなびたかっこうで背中を丸め、眼のことを考えて緑色の傘を持った彼は、小さな車椅子に座っていた。 そしてそれを豪華なお仕着せを着た二人の従僕が押しているのであった・・・

「あなたを歓迎します」 うつろな声で彼はそう言った。

「世襲した『わたし』の土地の上で、『わたし』の古い木立の陰で!」

彼の頭上には、樹齢千年のカシの巨木が天幕のように広がっていた。

私はこう思った。 「ああ、千年も生きてきた巨人よ、聞こえるかい? おまえさんの根元を這いまわっている瀕死の虫けらが、おまえさんのことを、『自分の』木、と呼んでいるのが!」

と、急にそよ風が波のように起こってきて、その巨人の一面の葉の上を軽くさらさらと音を立てながら通り過ぎて行った・・・ すると私には、カシの古木がそのやさしい静かな笑いでもって私の思いに、・・・そしてまた病める者の高慢に対しても応えたような気がするのだった。

(1882年、11月)



Мои деревья

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コメント

ツルゲーネフは、身近な視点を距離感おいて捉えた感じでした。
今回は、それより イサコフスキーだったか、グミ(ナナカマド)や
樫の木など たしか歌っていたかなぁ あー「ウラルのグミの木」
など 歌っていたな~とか 懐かしく。。

楡 ポプラ 樫 向こうは 大きいですね。

> kawasemi さん

ロシア民謡にも通じておられるのですね。

イサコフスキー(たしか『カチューシャ』を作詞した人)、「ウラルのグミの木」・・・ どれもロシアっぽい響きです。

「楡 ポプラ 樫 向こうは 大きいですね。」 大木が絵になる雄大なロシアの大地が大好きです^^。

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