« コフェテュア王と乞食娘(愛しの名画たち 4) | トップページ | 組曲「金鶏」 »

2012年4月12日 (木)

イワン・スサーニン

Photoロシア国民主義音楽の祖であるミハイル・グリンカ(1804~57)は、『イワン・スサーニン』(『皇帝にささげた命』というタイトルでも知られる)と『ルスランとリュドミラ』という二つの重要なオペラを作曲しました。

『ルスランとリュドミラ』は、その序曲がしばしば演奏されることから、わが国でも割とよく知られているようですが、『イワン・スサーニン』のほうはそのタイトルからしてあまり知られていないような気がします。

ですが、この『イワン・スサーニン』こそは、それ以後の「五人組」やチャイコフスキーらのロシア・オペラに決定的な影響を与えた、まさにモニュメンタルな作品です。

一般にグリンカの作品は、西欧的模倣から脱却できずにいたそれまでのロシアの音楽とは明らかに異なり、真に国民的な芸術音楽として高められていますが、このオペラはそれらを代表するものであり、ロシア国民主義音楽全体の嚆矢にもなった重要な作品です。

このオペラは、4幕とエピローグから成っていますが、終始一貫、ロシア的情緒が横溢し、最初のロシア国民主義オペラの名に恥じない貫禄を備えています。

プロットは大体次のようなものです。

時は1612年と1613年まで遡りますが、ロシアとポーランドの間にあるドムニノという村では、農民たちがポーランド軍の侵攻に対して一致団結して立ち向かおうとしていました。

ところで、この村にはイワン・スサーニンという農民がいましたが、彼にはアントニーダという娘がいて、もうすぐソビーニン(出征中)というフィアンセとの華燭の典を挙げることになっていました。

しかし、ポーランド軍がモスクワに向かって進行しているという知らせを聞いたスサーニンは、今はそのような時ではないと考え、皇帝を戴くロシアに平和が訪れるまで待つように、と娘に言い聞かせます。

まもなくソビーニンが戻ってきて、ロシア軍がポーランド軍を打ち破り、スサーニンの友人でもあるロマノフ公が皇帝の位につくことになったことを報告し、いったんはスサーニン家に幸福が訪れます。

一方、ポーランドのジギスムンド三世の宮殿では、それとは知らずに勝ちを信じた王侯たちが宴にうつつを抜かしています(有名なポロネーズの場面)。

いよいよ結婚式が近づいたのでソビーニンは友人を招待しようと他所に出かけて行きますが、突如ポーランド軍の兵士たちがこの村に現れ、ロシアの皇帝はどこに隠れているのかと、スサーニンに詰問します。

ここでスサーニンは機知を働かせ、まず自分が養父になった孤児のワーニャに、このことをすぐロシア農民軍の首領のミーニンに知らせるようにと、秘密裏に送り出します。

そしてスサーニン自身は、あたかも皇帝の隠れ場所に案内するかのように装って、みずからおとりとなって、深い森の中にポーランド軍を連れていきますが、彼のこのような犠牲行為は、ひとえに強烈な祖国愛から来るものです。

やがて雪深い森の奥深くまで来たポーランド軍の兵士たちは、ついにスサーニンの計略に気づき、その場で彼をあやめます。

一方、帰ってきて事情を知ったソビーニンはスサーニンを助けようと後を追いますが、もう時すでに遅しでした。

しかしワーニャのほうは、皇帝がかくまわれている修道院までたどり着き、事の次第を報告し、これによってロシア軍がポーランド軍に一致団結して立ち向かうことになります。

結局ポーランド軍は撃退され、ロマノフ公が皇帝の位につき、ロシアは再び平和を取り戻すのですが、これも勇気ある農民のイワン・スサーニンの与かるところ大であり、彼は国民的英雄として語り伝えられることになります。

ペテルブルクでの初演(1836)の際、臨席していた皇帝ニコライ1世がみずからを称賛するオペラであると思い、ご満悦であったことも手伝って、評判は上々だったのですが、グリンカの意図はそれとは違い、一人の無名の農民の英雄的行為を提示することによって、皇帝が一般人民への援助をより多くするように、というものだったそうです。

また1866年にモスクワのボリショイ劇場でこのオペラを観た若き日のチャイコフスキーが大いに感銘を受けたことも有名です。

『イワン・スサーニン』は、このように、エピソードにも事欠かない、ロシア的雰囲気に満ちたとても魅力あふれる作品であるだけに、日本でももっとポピュラーになってもいいのでは、と私は思っています。

* この作品はまともに通して聞くと約3時間半もかかるので、ハイライト的な部分を集めてみました。

序曲

ポロネーズ

アリアを中心としたハイライト集(順不同)

エピローグ

« コフェテュア王と乞食娘(愛しの名画たち 4) | トップページ | 組曲「金鶏」 »

ミュージック」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: イワン・スサーニン:

« コフェテュア王と乞食娘(愛しの名画たち 4) | トップページ | 組曲「金鶏」 »