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2012年2月28日 (火)

「まんがで読破」シリーズ

先日、久しぶりに地元の書店に立ち寄り(大体において、書籍や雑誌はアマゾンで購入する場合が多い)、あれこれと物色していたのですが、ふと目にとまったのが今回お話しする「まんがで読破」シリーズでした。

ズラッとカラフルに並んだ背表紙群の中から、カバーに描かれている漫画の雰囲気から良さそうだと思って選んだのは、「千夜一夜物語」「椿姫」「ユリシーズ」「カラマーゾフの兄弟」の4冊でした。

購入した翌々日から2日間で全冊一気に読んでしまったのですが、ハッキリ申しましてこれらは買って正解でした!

以下、舌足らずながら各冊についてコメントしてみたいと思います。



「千夜一夜物語」

有名な「アラジン…」「アリババ…」「シンドバッド…」の3つは載っていませんが、ここに含まれている8つの物語はいずれも興味深いものばかりで、このうち私が知っていたものは「空飛ぶ黒檀の木馬の物語」のみでした。

「シェハラザードと王のはじまりの物語」から始まって「大団円」で終わる、漫画によるこの「アラビアン・ナイト」は、プロットの流れがごく自然に感じられ、また画にそこそこエロさも加味されていて、この中東の神秘的で奇想天外な古典の雰囲気をよく伝えてくれていると思います。

一番印象に残ったのが「床屋と紺屋の物語」で、人間の本性を十二分ににえぐり出していると同時に、哀感すら感じさせられる一編だと思いました。

以前は「アラビアン・ナイト」といえば、まずその魔法めいたおとぎ話的なイメージを強く抱いていたのですが、このたびこの本に接してみて、改めてその高い価値を認めざるを得ませんでした。

人間や社会に対する強いリアリズムを基盤としながらも、そこから何かしら有用な教訓を示し、さらにはイスラム教的な幾分夢幻的な夢や希望をも盛り込んでいるようなこの説話集を、このようなコンパクトにまとまった本で手軽に読めたのは、ラッキーだったと思います。



「椿姫」

この名作は、以前5つのバージョン(岩波文庫、光文社古典新訳文庫、オペラのビデオ、別の漫画本、そして英語の朗読CD)で観賞していて、わりとよく理解していると思っていたのですが、今回このコミックで読んでみるとまた新たな感興を催しました。

まず、ほんのわずかながら脚色されている(出来栄えがなかなか良いと思います)とは言うものの、限りなく原作に忠実に構成されているところが気に入りました。

当然、かなりの省略を施しているのでしょうが、終始一貫、この可憐で哀切な香気あふれる、いかにもフランスらしい古典作品を見事に「料理」していると思います。

最後のほうのマルグリットが息を引き取る場面では思わず涙腺が緩みかけたほどで、今度読んだ4冊の本の中では一番感動させられましたが、ここまで劇画が心に迫ってくるとは、当初は夢にも思いませんでした(欲を言えば、キャラクターのオメメがもう少し小さいといいかも)。



「ユリシーズ」

ジョイスの他の有名な作品である、「ダブリン市民」「若き芸術家の肖像」については既に読んでいましたが、この大長編に関しては、ちょっと気になってはいたものの、いわば手つかずの状態でした。

この有名作品のアウトラインだけでも知っておきたいと思って購入したのですが、読了してみて「ユリシーズ」の精髄のようなものに触れられたような気がしたというだけでも、それ以上の収穫があったようです。

20世紀初頭の、まだイギリスから独立する前のアイルランドの首都ダブリンで、たった一日という時間の中で、一人の勤め人とその周辺の人々に起こる出来事を描いたこの小説は、まともに通読すればかなりの日数がかかると思われますが、今回私はこの小説内の顛末をまさに一日(正確には数時間)で概観することができ、ちょっと得をしたような気分になっている次第です。



「カラマーゾフの兄弟」

ドストエフスキーの作品は、ずっと以前から割とたくさん読んできた方だと思いますが、この長編に関しては内容的にもほとんど把握していませんでした。

というのも、キリスト教的な知識がある程度、否、かなりないとほとんど消化できないのではないかという懸念もありまして、どうもとっつきにくかったわけですが、このたびこのバージョンで読んでみて、意外に女っ気もあり、読む気で読むなら結構スムーズに興味深く読み進めていける作品ではないかと思うようになりました。

以前、ソ連時代に製作された映画「カラマーゾフの兄弟」をYOUTUBEで断片的に見たことがありますが、この本を読む限り、二人の主要な女性キャラクターであるグルシェンカとカテリーナに関して言わせてもらえば、グルシェンカのほうはまあよいとしても、カテリーナについてはややミスキャストな感を否めません。

私も、このコミックで表現されているカテリーナのほうが原作における彼女の雰囲気をよく伝えているような気がします。

またアリョーシャの純真性には心惹かれるものがありますし、イリューシャの屈辱感もよくわかります。

親殺しの真犯人・・・ まさかの人でした!

という具合に、読み進めていけばいくほど面白く奥の深いこの傑作小説の醍醐味を満喫させていただきました。



まだ4冊しか読んでいませんが、古今の古典的文学作品を魅力的な画とともにうまくまとめあげたこのシリーズは、なかなかのスグレモノではないかと思います。

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