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2012年1月28日 (土)

プルーストを読む―『失われた時を求めて』の世界 [著]鈴木道彦

「失われた時を求めて」という、人口に膾炙したタイトルを持つこの小説は、私にとってそのあまりの長さのために、かねてから近づきがたいものになっていましたが、ついに導きの手が差し出されました!

アマゾンのウェブページでたまたま見つけたこの新書、つい先日、約半年という長い中断ののちに、不消化気味ながら何とか読み終えた、サルトルの初期の代表作「嘔吐」の訳者である鈴木氏の著書ということもあって、なんとなく親しみを覚え、即購入しました。

著者は、あの長大な「失われた時を求めて」の全訳を成し遂げた、プルースト研究者として国際的にも高い評価を得ているフランス文学者であり、その深い蘊蓄とこなれた文章で、この名高い長編小説の世界へ、私をごく自然に、易々と導いてくれました。

もちろん著者自身の訳文による、さわりの部分と思しきパラグラフを適宜差し挟みつつ、この作品を読み解く鍵ともいえる諸概念が、わかりやすく解説されています。

解説といっても、それはまま見られるような堅苦しさを伴わず、おおむね小説の流れに沿って、プルースト自身の境遇や当時の社会情勢などを背景に、キーワードが平易に把握できるような筆致で書かれています。

その中でも、とりわけ私が興味深いと感じたものの中に、「無意識的記憶」と「隠喩」の項があります。

熱い紅茶とマドレーヌが出されて、そのマドレーヌの一片を口にしたとたんに、何かしら過去の良き思い出(幼少のころに食したマドレーヌにまつわるもの)が徐々によみがえってくる、というくだりは、「無意識的記憶」の代表例として、この小説の中でも特に有名な個所らしいのですが、誰にとってもいかにも起こりうるようなことだと思い、親近感を覚えました。

また、「隠喩」の例として、バルコニーに映し出される手すりの模様の影を、生ける植物に譬え、その太陽光によるさまざまな様相と見え隠れする様子を、みずからの恋人のおぼろな影に重ね合わせるくだりなど、ほんとうに詩情に満ちていて、惹きこまれました。

この他にも、スノブや同性愛、さらには読書論等、今日の私たちにとってもなかなか興味深い問題についてのプルーストの慧眼が随所に窺われ、なかなか有意義な書であると思います。

私自身は、このようにコンパクトに要領よくまとまったプルースト入門書に接したおかげで、良くも悪くも全巻読破するというような気はほとんど消失し、おおかた(自己)満足している次第なのですが、もちろん殊勝な向きには、僭越ながら、鈴木氏同様、この世界文学史に燦然と輝く大部の傑作(ただし、作者の早世により未完に終わった)を読了されることをお勧めします。

付言すれば、若き日のサルトルもプルーストの諸作品を愛読し、多大な影響を受けていて、「『嘔吐』はプルーストのパロディだ」と言い切る人もいるそうです。

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