2017年10月22日 (日)

エピソード

エピソード

 

 

枯葉舞い散る晩秋の公園

 

彫像の前に老人が佇んでいる

 

笛吹き少年の像

 

みずみずしい 細身の メルヘンチックな

笛を吹いている少年

 

眺める老人の胸に

おぼろな追憶がよみがえる

 

一人の夢見がちな園児が

群れを離れてこの像に見入っていた

 

晴れ渡った春の日

花壇には色とりどりの花が咲き

友達の騒ぎ声が聞こえていた

 

メルヘンの世界に託した憧憬

 

青年時代に この像のそばを通りかかったことがあった

だが ちらと見ただけ

 

憧れるもの 惹かれるものがどっさりあったから

 

今 老人はほろ苦い懐旧に浸っている

往時と変わらぬ初々しい像を前にして

 

過去はすべて夢幻(ゆめまぼろし)のようなもの

 

いつのまにか 少年と老人を夕闇が包み始めていた

2017年10月22日

2017年9月25日 (月)

ホームドア

ホームドア

 

 

最寄り駅にホームドアが設置されていた

 

まだ使われてはいないが

来月から稼働するという

 

車両に乗り込む時 なんとなく邪魔臭かった

あの仕切りに馴染むには少し時間がかかりそう

 

だがひとたび慣れてしまえば

メリットは大きいだろう

 

転落事故や駆け込み乗車の防止…

 

今日あの新しい仕切りを見て感じたのは

なによりも時代の流れだった

 

あらゆる駅にホームドアが設置された遠い将来

乗客たちは思うだろう

 

昔 この仕切りがなかった時

どんなに危険だったことか と

 

邪魔臭いなどと言ってはいけない

あれは安全確保にとって必要なものなのだ

 

ホーム内のエレベーターによるバリアフリー化

このたびのホームドア…

 

人にやさしい社会に向かって

文明は確実に進化している

 

 

2017年9月25日

2017年9月22日 (金)

木立

木立

 

 

行き付けのコンビニは

家(うち)から歩いて五分ほどのところ

 

いつものように白い袋を下げての帰り道

とある木立が目に入った

 

周りはことごとく住宅が建ち

そこだけが取り残されたかのよう

 

鬱蒼と茂る葉むら 曲がりくねった枝

雅趣あふれるそのたたずまい

 

見ごたえのある森がこんな近くにあったとは!

ささやかな充足感が込み上げてくる

 

が 次の瞬間 それは哀感に取って代わられた

早晩あの樹々も切り倒されてしまうのだろう

 

木立が伐採されて跡形もなくなり

さら地になった姿が亡霊のように浮かび上がる

 

そんなにもしっかりと地に根を張り

そんなにも涼しげな木陰を成しているあの森

 

押し寄せる宅地化の波に吞み込まれるのも

もはや時間の問題かもしれない

 

だがわたしは心の中でひそかに願っている

むなしい願いかもしれないが

 

おお 最後の武蔵野の面影 最後のオアシスよ

どうかいつまでもそこにあってほしい と

2017年9月22日

2017年9月19日 (火)

窓の向こうに

窓の向こうに

 

 

昼 広い窓の向こうに見えるのは

青い空と白い雲のみ

 

9階で臥床して見る窓外の光景に

都心の高層ビルは無縁だ

 

薄青色の空の中を

白い雲が音もなく軽やかに流れてゆく

 

ああ 本当に憧れているものは

あの青空にあるのではないか?

 

生の喜悦と神秘

そして永遠の憧憬を感得するこのひと時!

 

         *

 

夜 透明な窓の向こうに見えるのは

オレンジ色の東京タワーと白い月

 

文明と自然の演出する

魅惑のナイト・ビュー

 

今宵 都心の夜空に浮かぶお月様は

気持ち冷ややかで

無機質なタワーにお似合いだ

 

しばしこの新奇な取り合わせを賞玩してから

そっとカーテンを引き

白いベッドへ横たわる

 

 

2017年9月19日

2017年7月23日 (日)

青空の下で

青空の下で

 

 

よく晴れた日の正午前(まえ)

原付に乗って北千住方面に南下していた

 

青い空 白い雲

心地よく吹きつける風

 

他には何も感じずに

それらだけを道連れにひた走る爽快感!

 

生きている喜びを実感できたあの貴重なひと時は

記憶の宝石箱にそっと仕舞っておこう

 

 

2017年7月23日

2017年7月16日 (日)

夏の夕べ

夏の夕べ

 

 

店内にクーラーは効いていなかった

昔ながらの扇風機が送ってよこす生暖かい風

 

王子駅近くの小さな中華料理店で早めの夕餉をしたためる

ここの炒飯の味や如何に

 

向かいのテーブル席でこちらに背を向けて

黙々とラーメンを啜っている若い作業服姿の男性

仕事の合間なのか 終わった後なのか

 

カウンター席越しで熱気と油にまみれて立ち働いている

男性スタッフたちの中には

お店のあたりでよく見かける

自転車で出前をしているあのオッチャンもいる

 

ラジオが流れていた

DJとCMが交互に聞こえてくるあの独特の趣

 

今となってはもうはるか昔の追想

暑い晴天の夏の日の夕まぐれ

 

 

2017年7月16日

2017年6月17日 (土)

青い窓

青い窓

 

 

三階作業室の窓辺には人影もなく

青く染まったガラス窓越しに彼方の市街がほの見える

 

上方にはビルメンテナンスの養生の青い覆い

期間限定で光の色を黄から青へと変えている

 

荘厳な教会のステンドグラス

エキゾチックなイスラム陶器の文様

 

外と内とを隔てるこの神秘のコバルトブルーが

わたしの心をそっと夢幻の世界へ誘ってくれる

 

 

2017年6月17日

2017年6月10日 (土)

月と叢雲

月と叢雲

 

 

黄金色したまん丸い月が

真っ暗闇の虚空をほんのりと照らしている

 

あたりに漂う叢雲が

絵画的な風合いを醸し出す

 

月をかすめて叢雲が流れ去る

灯明をよぎる香煙のごとく

 

この静謐で神々しいつかの間の雲隠れが

初夏の夜空にいとも幽遠な趣を添えている

 

 

2017年6月10日

2017年6月 7日 (水)

名主の滝公園

名主の滝公園

 

 

王子駅からてくてく歩くこと10分

趣ある薬医門をくぐって園内に入る

 

濁り切った広い池には水草が生い茂り

大ぶりな鯉が悠揚と泳いでいる

 

落差8メートルの男滝は庭園のシンボル

その轟音と水しぶきが醸し出す爽やかな涼気!

 

林間の起伏に富む小径からは渓谷が望まれ

さながら深山幽谷を逍遥しているかのよう

 

 

2017年6月7日

2017年6月 4日 (日)

招き猫

招き猫

 

 

丈の高さ9センチ

白い小さな縁起物

 

赤い首輪に金の鈴

右前あしで招きのポーズ

 

そういえば 近年とりあえず

大厄には見舞われていないような

 

豪徳寺で求めたふっくらとした猫は

今日も棚の上でおすまし顔

 

 

2017年6月4日

2017年6月 2日 (金)

 

 

うっすらとした灰白色の花びらが

音もなく羽ばたいている

 

ひともとの小さな茎のまわりを

軽やかに舞う二対の花びら

 

ふと翅を重ね合わせ

貝殻のように静止しているが

 

やがてまた次なる甘露を求めて

何処とも知らず飛び去ってゆく

 

 

2017年6月2日

2017年5月27日 (土)

手賀沼と女優N

手賀沼と女優N

 

 

その日は薄曇りだった

二十数年前の五月上旬

 

ささやかな野心を抱いてA駅に降り立つ

かの手賀沼を一周するという

 

カツ丼で腹ごしらえをした後

東西に長く伸びた沼に沿った遊歩道を歩き始める

 

海のような壮大さはない

湖のような優美さもない

 

だが向こう岸がよく見えるそのたたずまいに

どこか親しみが湧いてくる

 

黙然と釣り糸を垂れている太公望たち

彼方では一羽のサギが飄然と佇んでいる

 

いつしか夕闇が迫っていた

残りの距離はとても踏破できそうにない

 

いささか挫折感を抱きつつ

歩き疲れた沼を後にする

 

帰宅して新聞を広げると

女優Nの訃報が載っていた

 

今でもNの可憐な面差しが思い出される

あの風情溢れる手賀沼とともに

 

 

 

2017年5月27日

2017年5月21日 (日)

鍵と「野草」と炒飯

鍵と「野草」と炒飯

 

 

 ほんのささやかな出来事が いつまでも記憶の片隅にあって 時折妙に懐かしい思い出となって甦ることがあるものだ

ずっと以前のこと 東北地方のK市の某ビジネスホテルに一泊したことがあった  なぜK市に行ったのか 不思議と思い出せない  私用であったことは確かなのだが

 まだたいそう若く 孤独で 文学を愛していたあの当時のわたし  K駅から町の西部にあるホテルまで歩いていく  折から埃っぽい強風が吹きつけ 決して快適な行路ではなかった

 着いたのはチェックイン前  割と広めのロビーで ゆったりとした茶色いソファーに腰掛けて しばらく待たねばならなかった  バッグから一冊の薄い文庫本を取り出して読み始める  魯迅の「野草」  たまたま所持していたのだが この近代中国文学の父のものした散文詩は いたく読みごたえがあった

 部屋に入ってからどのようにして過ごしたかは とんと忘れてしまったが 深夜 おそらくはドリンク類を自販機で購入しようとして 廊下へ出たのだった  ありがちなことだが 鍵を部屋の中に置いたまま オートロックがかかってしまい 入ることができなくなってしまった  フロントへ行き 夜勤のおじさんに合いカギを所望  少しく苦笑いしながらも 快く部屋まで同行してくれた

 翌日 K駅近くの飲食店街で食事をしたためる  何にするか多少迷ったが やはり中華料理店で 大好きな炒飯をオーダー  味 量ともに満足のいくものだった

 こんなふうにしてK市での二日は過ぎていった

 取り立てて言うほどのドラマが起こらなかったにもかかわらず 時々思い起こすのはなぜだろう?

 このあいだ「野草」をもう一度読んでみた  やはり素晴らしい  改めて魯迅の文学的才能に脱帽した

 炒飯は今でも時々食している  この好物はこれからも付きまとうだろう

 この不思議な懐旧は 若さと 詩情と 美味がないまぜになった ほろ苦い青春のノスタルジーなのかもしれない

 

 

2017年5月21日

2017年5月20日 (土)

五月のブールヴァール

五月のブールヴァール

 

 

初夏五月の昼下がり

七月並みの暑さの中を歩いていく

 

長いこと日陰がない

体が涼気を欲している

 

ようやく馴染みの並木道に差しかかる

一直線に整然と並んでいる街路樹たち

 

こないだまで冬枯れしていたのに

いつのまにか新緑を呈している

 

季節の移り変わりの確かさ

時の流れの速やかさ

 

黒黒とした影が歩道を覆い

ところどころ黄色い木漏れ日がちらついている

 

このブールヴァールを歩むにつれ

体のほてりが遠のき 足取りも軽くなってきた

 

つややかな緑は目を楽しませ

暑気をやわらげる木陰は体を癒してくれる

 

美観と有用性を兼ね備えた並木道こそ

歩行者のオアシス

 

生い茂る緑の葉むらが

通り過ぎる人々に 大いなる恩恵を施している

 

 

 

2017年5月20日

2017年5月14日 (日)

峠への道

峠への道

 

ゆるやかな勾配の山道が

駅から峠まで続いていた

 

風趣あふれる山景をめでながらゆっくりとのぼっていく

湿り気を含んだ落葉を踏みしめて

 

傍をちろちろと小川が流れている

街なかでは到底見ることのできないその清冽な水

 

思わず手を浸してみれば

えも言われぬ冷涼な感触!

 

岩に張り付いて濡れそぼった赤黒い紅葉に

秋の気配をしみじみと感じる

 

道はおおむね薄暗かったが

ちらちらと木漏れ日が射しこむことも

 

右方は懸崖だったが

左方は鬱蒼とした樹林であった

 

丈高い木々の間に望まれる彼方の明るい風景が

そこはかとない開放感を醸し出す

 

直線距離にして二キロメートルほど

いつの間にか峠に到達

 

秩父山地の一角から見晴るかす飯能方面は

限りなく広やかですがすがしかった

 

そして今しがた通ってきた霊妙な山道のことを顧みるにつけ

幽邃なる深山を逍遥したかのような感慨を抱くのだった

 

2017年5月14日

2017年5月13日 (土)

神保町

神保町

 

ネット通販がなかった頃

書籍は書店で購入するしかなかった

 

よく出向いたのが神田神保町

かの有名な世界的古書店街

 

今思えば結構な足労だったが

それを補って余りある魅力がそこにはあった

 

新刊古書問わず多様なジャンルの日本語書籍に加えて

ロシア語や中国語の本を取り扱う店もあり

ひねもす物色していても飽きないほど

 

そのうえ食も充実していて

食べ歩きにも事欠かなかった

 

とりわけ印象に残っているのが

今は無き某カフェの麵の太いナポリタンと

某カレー店のゆでたジャガイモの付いたカレーライスの美味!

 

ニコライ堂 湯島聖堂 神田明神

数多くの大学 予備校 専門学校

軒を連ねる楽器店 スポーツ用品店 出版社…

 

古い歴史に育まれた

神田界隈のあの文化的な香りが好ましかった

 

電子書籍やネット通販の登場した当今

紙の媒体や書店の影が薄くなってきている

 

それでも神保町への思慕は変わらないだろう

本とカレーとレトロなカフェを愛するわたしなのだから

 

2017年5月13日

2017年5月 7日 (日)

白壁の館

白壁の館

 

 

その木造洋館は

緑の木立に囲まれて佇んでいた

 

窓枠とポーチの柱を薄緑に彩色された

白い瀟洒な旧宣教師館を訪れたのは

四年前の夏のこと

 

百年以上も前に建てられた

アメリカ人宣教師の居宅

 

ひっそりとした館内に入れば

今は亡きあるじのつつましやかな暮らしぶりが

木のぬくもりとともに伝わってくる

 

小ぶりな庭にしつらえられている白い木製のベンチは

もう久しくあるじを無くして物寂しそう

 

たまたま見学に来ていた一人の中年女性に

写真撮影を依頼される

 

ファインダーの中で

光あふれるポーチの前にすっくと立つ彼女が印象的だった

 

ここはなかなかいいところですね

 

二人とも満悦した様子で

これこそ何よりというもの

 

今もあの白壁の館は

新来の客人たちを

あのやさしくフレンドリーな相貌で

あたたかく迎え入れているに違いない

2017年5月7日

光の二面相

光の二面相

 

 

朝な夕な

陽光に浴している

 

さし上る太陽の光

沈みゆく太陽の光

 

晴天の日には

とりわけ順光と逆光がはっきりしている

 

あたりの風物をごくナチュラルに映してくれる

目にやさしい順光

 

時として苦痛を感じるほど強烈でまぶしい

目に厳しい逆光

 

順光はいつも自然で快い

電車に乗って窓外を見やれば

明るくクリアな景色が目路はるかに広がっている

 

だが逆光は一筋縄ではいかない

日差しの強い午後など

鉄橋を渡る電車の中で

まともに照りつけるまぶしい光を避けようと目を閉じていたにもかかわらず

鉄柵の黒い影がちらちらとまとわりついたものだった

 

順光にはワンクッションがあり

その物腰はいたって穏和である

 

だが逆光は森羅万象をはぐくむ太陽の原始的なエネルギーを感じさせてくれる

そこには太陽の強烈なアピールがある!

 

 

2017年5月7日

2017年5月 5日 (金)

魔法の旋律

魔法の旋律

 

 

はるか昔 東京のとあるレストランで

ランチをしたためたことがあった

 

シックな内装が施された薄暗い店内で

まろうどだったのは わたしひとり

 

ゆったりとした木製のテーブル席に着く

 

ソース 食塩 ペッパー…

お定まりの調味料が 黒みがかったテーブルの片隅で

料理に供されるのを待っている

 

肉料理だっただろうか

オーダーしたものは忘れたが

なかなか美味であった

 

が 何よりもこのレストランを印象付けたのは

この上なくムーディーでエキゾチックなBGM

 

シェヘラザード

 

聴く者を陶酔させる魔術めいた力を秘めた

その優艶なる旋律!

 

舌触りのよい料理や瀟洒なインテリアもさることながら

あのほの暗いレストランの本領は

それらに豊麗な彩りを添える

かの極上の音楽にあったのだ

 

 

2017年5月4日

2017年4月29日 (土)

ゆらめき

ゆらめき

 

 

明るい春の青空の下

とあるベンチに腰をおろす

 

朝方の新鮮な空気とあいまって

吹き過ぎるそよ風が心地よい

 

この風に

そこここの樹木たちの枝葉が揺らぐ

 

近くの灌木の赤黒い葉っぱたちは

ごく控えめに震えている

 

遠くに見える丈高い木の緑葉が

枝もろとも悠揚となびいているのとは対照的だ

 

だが 揺らいでいるのは

それら生い茂っているものだけではない

 

日差しを受けたプロムナードに

かの赤黒い葉っぱたちが影を落としている

 

光の中でたゆたう

黒黒としたシルエット

 

その揺らぎは微妙に変化する

わたしの肌が感じる風の強さの度合いに応じて

 

風と影が織りなすこの妙なるゆらめきが

見つめるわたしを没我の境地へといざなってくれる

 

 

 

2017年4月29日

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